遺言


 

 

 

朝早く起きると必ずと言っていいほどの確率で霧が発生するSHK。
僕知っている童話では 

『死者が光の国で家族のことを思い、嘆き悲しみ流した涙が地上の水分になり霧となる』

と書いてあった。ギギギとドアの軋む音がしてドアを見るとそこには

「陛下?もう起きているのですか…」
「ああ、イヴェールか…驚いたよ君も早いね…」
「はは…僕は偶々ですよ、今日も霧が…誰かが泣いているんですよね」

イヴェールは笑いながら僕の寝ていたベッドの端に座る

「陛下、今日何の日か知ってますか?」

急にトーンを変えて僕に問うてくるイヴェールの顔は真剣そのものだ
だが僕はその答えを知らない。彼以外が知る由もない答えだったのだ。

「何の日だい?」
「今日は…今日は僕が生まれる予定だった日なんですよ」

彼は笑っている。笑っているのだが心が笑っていない
心の内を隠す笑い方。そんな笑い方をしている

「そう思うと…毎日が誰かの誕生日で、毎日が誰かの命日なんだって思うんです」
「…そうか、僕は…いつ終焉を迎えるのだろうね」
「そんな不吉なこと言わないで下さいよ、陛下」

カーテンの隙間から光の筋が入ってくる

「あ、僕もう行かないと姫君達に怒られてしまうな…」
「じゃあこの話は次回に持ち越しかな?」
「ふふっそうですね…ではまた今度時間があるときにゆっくり話しましょう、失礼いたしました陛下」
「ああ、また今度会おうイヴェール」

扉を閉めながら彼はそう言った。
その言葉が僕と彼の最後の会話に成りうるかもしれない
だから



「ありがとう…」





遺言
(また話そう、僕は笑顔で嘘をつくんだ。だからこの嘘が嘘でありますように…)