私達の物語


 

 

 

その問いは興味からだった。特に深い意味もなかったし其処まで落ち込む人じゃないと思っていた。
もし落ち込んでしまったら抱きついて「ごめんなさい」と謝れば平気だと思う。そんなことを考えながら私の足は少しずつムシューの居るところへと近づいて行く。

「ムシュー…居ますか?」
「いいよ入って」

ムシューの声が聞こえて扉を静かに開くとムシュー以外は誰もいなかった。私の相方はきっと新しい【物語】を探しに行ったのだろう。

「オルタンスは何処に?」
「ん…ロレーヌに行った時に見かけた少年が気になると言い行ってしまったよ。」
「そうですか…」

ムシューはそう言い机の上にある本を手に取った。

「この世界には数え切れないほどの【物語】がある。命有る者には必ず終焉があり、一つの命の始まりから終わりまでを君もいくつも見て来ただろう。」
「あの、ムシュー…」
「何?」
「命有るもの必ず終焉が有るならば私達にも終焉が有るはずですよねムシュー。ムシューより…私達双子の終焉の方が早かったならムシューは残りの時をどう使う…ムシュー?!」

ムシューはあまり感情を顔に出さない。もう数え切れない時を三人で過ごして来たから全てを理解していた。
笑うことはあったけれど泣くことは今まで見たことがなかった。

「ムシュー…」
「いつかこんなことを姫君達から問うてくることは分かっていた。…終焉は三人一緒に迎えよう。誰一人描けずにね。」

ムシューは笑っていた。私はムシューの笑顔が好き。もっと笑っていてほしい…

「最後の時は皆で笑って迎えましょうね…」
「そうだね…ヴィオレット」
「えぇ、ムシュー・イヴェール。」

扉の向こうから慌ただしい足音と元気よく「ただいま!」と言う声がする。数秒後に扉が開き私の相方が入って来て、そして新しい【物語】を瞳を輝かせて話し始めるのだろう。



そしていつしか私達の【物語】も…




(ムシュー今日はね!ロレーヌでね!)
(お昼ですよー)
(あっ今日の献立なーにー?)