その風景


 

 

 

人は誰しも「懐かしき風景」があるのだと言う。
とある将軍は【夕日の丘】
とある娘は【生まれた村】


とある少年は…
とある少年…
少年…
僕は…




「ねぇキミ、もしキミが生まれる前に死んでいた存在だったらどうする?」
「そうだよね。生を宿してくれた人間の顔も分からないんだ。怖いよね、この世界が」
「怖い物を無くす為にはどうすればいい?ん、正解!全てを知ればいいんだよ」
「そう、全て。この世の何もかもだ。でも今のキミは僕しか知らない。だから今は僕しか信じないよね?」
「そう。いい子だ。まず全てを知るには自分を知らなければならない。自分を知るには焔が必要だ。」
「人は一つずつ自分の焔を持ってる。キミは生まれる前に死んでいるから焔を持っていないよね」
「キミに僕を捧げよう。そうだ!名前は…【傾かざる冬の天秤】…そう。キミは」






「ん…」
「おはようございますムシュー。もうすぐお昼ですよ?」
「…そんなに寝ていたのか…起こしても良かったのに」

とある一部屋。そこには【傾かざる冬の天秤】と【双子の人形】。
世の理に反した風景。そんな風景にさえ懐かしむ焔がある。
その懐かしむ焔が消えない限りその風景は存在し続ける。
「心の中に存在している」そんな簡単なことなら【誰も】苦労はしないのだ。

「この匂いは…好物ばかりだ…ありがとうヴィオレット、オルタンス」
「オルタンスのは真っ黒で炭みたいなんですの!どう思いますかムシュー?」
「それは言わないって約束したじゃない!馬鹿ヴィオ!」
「…本当のことじゃないの?」
「うっ…」

「心の中」というものを【目】で見ることはできない。ならば信じない。
【目】で見ることができないから【誰か】が苦労しているのだ…





「成長したな【傾かざる冬の天秤】よ…私の焔を預けたときにはあんなに【小さかった】のに…」
「元気で居られるのも、【その風景】を見ていられるのもあと僅かだ。私の焔が消えればお前も少しずつ衰弱していくだろう。」
「その知識が底を尽きれば焔は完全に終焉を迎える。【傾かざる冬の天秤】よ。お前は残った量で…」



「いくつの【風景】を守り抜くことができるかな…?」




(なら僕はこの風景を焔が尽きるまで懐かしみ続けよう…)