ろまん劇場2 僕と双子の人形と。


 

 

 


「ムシュー!起きて下さい!」

オルタンスの声が近づいてくる。次にやってくるのがフライパンとフライ返しを持ったヴィオレット。
フライパンとフライ返しは僕を起こす為の専用の物らしい
その五月蝿さに折れて僕は起きる。これが毎日続くのだ。

「おはようございます。ムシュー」
「ああ、おはようオルタンス」
「朝食冷めてしまいますわよ?早く降りてきてくださいね」
「分かった、すぐに行く」

それではと言いオルタンスは扉を閉めた。
頭の中で今日やる事を思い出しながらベッドから降りると
暖炉の上に約20センチ四方の箱が置いてあるのが見えた

「昨日は…無かったよねこんなの」


誰かの物分からないのに勝手にあけるのは悪いと思ったが
僕の部屋に置いたのも悪い、一人で呟きながら箱をあけた

「これは…楽譜?あと、指輪…」

中には数枚の楽譜とダイヤモンドのような宝石が埋め込まれた指輪
箱はしっかりラッピングもしてあるし表面に英語で『Happy Birthday!』と書いてある
僕に誕生日はない。生まれてくる予定の日はあったけれどそれは今日ではない
だとしたら誰のだろう。頭をフル起動していると箱の底にメモが貼ってある事に気付いた

「『You sing. This song.』…僕が歌うのかい?って違うか。僕じゃなくて渡す相手に…だよね。でも、歌ってもいいかな。」

罪悪感ありまくりだけど、この箱一つにどんな【物語】があるのか、知りたい。
この箱を誰がどんな気持ちを込めて渡すのだろうか。相手は喜ぶだろうか。

「僕だったら…嬉しいよ。」

この箱は、詩は相手にはきっと届かない。ならこの詩を僕が歌おう。
意味の無い詩なんて存在しない、いや存在させない。
箱を見ながらそう考えた後楽譜を手にとり目を落とす

「あ…この詩は…知ってる。」

何だっけ。知っているけど覚えていない。大切な旋律、僕の焰と同じ
嗚呼思い出した、これは…

「これは【僕】だ…」

偶然か、神々の悪戯か、それとも運命のささやかな贈り物か…
誰かは知らないけれど

「ありがとう…あ、朝食が」

姫君達は怒っているだろうか、心配してくれているだろうか
楽譜を机において部屋から出る。

「おっと、忘れ物忘れ物!」

部屋に戻り暖炉の上においてある指輪を右手の人差し指にはめる
もう一度部屋を出て階段を駆けおりると遅いと二人から怒鳴られた。

「ごめん、ちょっと色々あって…」
「ふふ、言い訳はいりませんよ。ね?ヴィオレット」
「ええそうね、あ…料理暖め直した方がいいかしら…」

僕も手伝うよと言いキッチンに行けば二人からの視線が痛い
僕が何かしたか、と聞けば二人が口を揃えて

『『いえ、ムシューの機嫌が久しぶりにいいので少し驚いただけです』』

と言いニッコリ笑う。僕はその笑顔が怖くてそっか、と無理に笑顔を浮かべる
それから1時間後、
読書中の僕の右手に視線が集められ目が合うとニッコリと笑われる



僕は嫌われてしまったのだろうか…?





結局、箱の置き主が誰だか判明するまでに僕の精神と、数日もの時間を要するのである。



僕と双子の人形と。
(バレてませんよね…ベタ過ぎましたよね…)
(まさか指輪を付けて来るとは…思っていませんでした…)