Thank you&Happy birthday3




雨が降り始めてから32分。ルキアが姫君のところへ戻ったと連絡が入った。
ちなみに僕はクロニカと台本の編集、と言ってもクロニカの下僕として働いている。
姫君達に連絡を入れても出てくれない。クロニカの通信機で連絡しても声を出せば切られてしまう。
正直寂しい。

「イヴェール君?指が止まってらっしゃるわよ?」
「待った!その笑顔怖い怖いっ!!痛いからっ!」

笑顔で僕の指を普通では曲がらない方向へ曲げるクロニカ。バキッという音が鳴ったが
当の本人は知らんぷり。しかも指が使えないと言えば、

「足でやればいいじゃない」

と一言述べて作業へと戻る。今のところ台本の最終チェックが終わり本にしているところだ。
手が無ければできない作業と言ってもいいだろう。

「ヴィオレット…オルタンス…頼むから声だけでも聞かせておくれ…」
「あーもう!男がウジウジしてると苛つくのよ!いいから作業続けなさい!」
「…はい」

そして僕は仕方なく作業を始める…





43分後、僕は泣き崩れていた。理由はクロニカに全てを聞いたから。
クロニカが言う姫君達の考えは僕がいつも引きこもってばっかりだから姫君達と連絡の取れないようにして、
他の人と話すことに慣れさせようと言うことだった。そのとき僕はからかわれたと思っていた。
だが違った。からかっている訳ではなかった。

前に僕とヴィオレットで終焉の話をした。ヴィオレットの話を聞き
オルタンスも改めて僕のことを考えていたらしい。
そして今に至ったのだ。本当に…この二人にはいつも泣かされてばかりだ。

「イヴェール、呼吸落ち着いた?」
「ああ、一応呼吸はね。でもまた嬉しくて泣いてしまいそうだ…」
「馬鹿ねぇ…いきなりあの子達の前で泣いたら心配するでしょう?今回は泣いている理由も分からないのに…」


『ムシュー?…!どうしたんですか?!』
『どうしたの?ヴィオレット…ムシュー?!お体でも悪いんですか?!』

「心配…かけてしまったらまた声が聞けなくなってしまうか…」
「そうですよ。あなたも今の状態でこんな事になっているのだからこれ以上離れると…」
「病むんじゃないかって?」
「よく分かったわね…」
「昔から生きている者同士、なんとなくわかるんだよ」

そうか、なんとなく。あの双子はほんの小さな異変だって気付いている。
『なんとなく気分が悪そうだったので』と二人が言った次の日の朝に熱が出たのは驚いた。
そういうことだったのか。

「なんとなく…頑張ってみるか!」
「なんとなく?」

クロニカが笑顔で僕に迫ってくる。

「あ、いや。その…」
「きちんと!やって下さい…ね?」
「ひいぃっ!」
「…ぷっ…変な声!おっかしいの!」
「そんなこと言わないでくれよ!」


国王陛下誕生日5日前。広い、広い青空の下。笑顔の花が咲き誇る。









Thank you & Happy birthday  3