ムシューの後をついて行く私とヴィオレット。
あの人は昔から人が苦手で【物語】を探すこと以外で外に出ることは滅多にない。
人見知りが多くて他人に褒められることがあまり好きではない。いや、人に会うこと自体嫌いだった。
まだムシューの知識が浅い頃、人に会っては家に帰り顔を真っ赤に染めて泣いていて
私が一緒に泣いてあげることもあった。
今では会うこと自体は平気になった。だが他人に褒められるということはまだ慣れていないらしい。
「…ムシュー」
聞こえるか聞こえないかの小さい声で私は呟いた。
その声も聞き取ったのかムシューは首をほんの少しだけこっちに向けて目線だけ寄越してくる。
「…何だ?……」
「泣きましょう?ムシュー…一緒に。」
「…そんなこと出来たらどんなに楽だと思っているんだ。」
そう言いまた歩き出す。
「っ…待って下さい!ムシュー!いいえ、イヴェール・ローラン!」
「?!」
さっきまで口を閉ざしていたヴィオレットがいきなりムシューを呼び止めた。
愛称ではなく、本名で。つまりヴィオレットは本気なのだ。それを察したのかムシューも足を止める。
「我慢しないで下さい!貴方はいつもいつも溜め込み過ぎですよ…自分では気付いていらっしゃらないのでしょう?」
「…何が」
「一ヶ月ぐらい前から顔色が悪いです…そばに居るんですからすぐ気付きますよ…一ヶ月前、それは…」
「言うなっ!!」
「っ…」
一ヶ月ほど前、ムシューとヴィオレットが終焉の話をした頃だ。
私も薄々気付いていた。ムシューが何か違うと。顔色もそうだが私への接し方も変わっていた。
やはりそのことが関係しているのだろう。
「私も…薄々気付いてました。顔色もそうですけど…私への接し方も変わったなと、思ってました…」
「…気付いて…いたのか」
「「当たり前ですよ…貴方の【人形】ですからね…」」
微笑みながら私とヴィオレットはそう言った。
「…泣いて……良いのかい…?」
そう聞くイヴェール。私は首を縦に振った。
「っ…ヴィオレット、オルタンス…心配をかけて済まなかった…」
「それを言うのは私ではなくルキアさんやクロニカさん、冥王さんではないのですか?」
「オルタンスの言うとうりですよ?戻りましょう…」
「ぅっ…そうか…待って、もう少し泣かせてくれないか…?」
「…ええ、いいですよ…いくらでも待ちますからね」
私はそう言うとヴィオレットに耳打ちで誰かに連絡を入れてくれと言っておいた。
「一緒に泣きましょう?ムシュー…」
「っ……うっ…」
ムシューの背中をさすりながら一緒に泣く。懐かしい感覚だ。
「貴方のもとに、幸福が訪れますように…」
Thank you & Happy birthday 6
(貴方の代わりに泣いてあげる…)