望める婚礼[side:März von Ludowing]2

 

暗闇を照らすのは一本の蝋燭。
聞こえて来るのは僕と彼女の吐息と
追っ手達の声
慌ただしい足音
そんな中必死に息を潜めて屋根裏に隠れる僕と彼女

「お嬢様は何処だ!」
「隅々まで探せ。」
「「了解!」」

三対二、相手は貴族の家来。
戦闘能力の差は一目瞭然。
逃げ道は屋根を壊す以外は不可能。
だが屋根を壊す音で気付かれればそこで終わりだ

「メル…」
「大丈夫、君の事は絶対守るから」

守る、と言い切ったが正直自身は無い。
あの時、自分の身も守れずに突き落とされた。
そんな弱い自分のままで今この腕の中にいる彼女を
絶対に守らなければならない大切な人を
守りきれるだろうか
心の中に不安ばかりが降り積もってゆく。
どうやって逃げようかと頭の中で試行錯誤していると

「屋敷に戻れと通信がきましたが…」
「仕方ない、引き上げるぞ」

複数の足音の後にギギギとドアの閉まる音がする。
先に屋根裏に手を出されていたら今頃僕と彼女は離れ離れになっていた事だろう

「メル…これからどうするの…?」
「下手に動けば見つかる。と言って此処にいてもすぐに見つかる。」
「じゃあ…」
「一つだけ当てがあるんだ。」

僕がそう言うと同時に彼女は花のような笑顔を見せる。

「…で、何処…?」
「そのうち分かるよ」

蝋燭を息で吹き消すと突然の暗闇に怯えたのか彼女の小さな体が震える。

彼女はいつもこうだ。不安になったり怖くなると僕の服の袖を掴む
今だってしっかりと裾を掴んでいる
暗闇と気味の悪いところにいるという恐怖感か
この先の未来に怯えているのか

それとも僕に怯えているのか。

最後の選択肢を頭の中からかき消し彼女に下に降りようと伝える。
梯子に足を掛けて床に足を落とせば木の悲鳴
梯子を下から支えながら上を見上げれば彼女のドレスの中が見えてしまう訳で

「っ・・・」

彼女にこのことを話し今逃げられては意味がない
たった今見た真実は胸の内に秘めておこうと決めた
頭の中で問題を自己解決していると先ほどより少し小さめな木の悲鳴が
彼女が床に降りたことを知らせる

「メル・・・?顔赤い・・・風邪でもひいた?」
「あ、大丈夫、だから」

そう、ならいいわと言い彼女は小屋の出口へと向かう
道も知らないのにどうする。そう言う暇もなく僕は彼女の腕を掴んでいた

「メル・・・?」
「道、分かってる?」
「あ・・・」

やっぱりと言うようにわざと大きめにため息をつくと
少し紅く色づき膨らむ頬。可愛い。素直にそう思った

「で、何処なの・・・?」
「暖炉の裏から僕の住んでいるところまで道を作っておいたんだ。そのほうが安全だろう?」
「・・・先に言ってよ」

笑いながらごめんと何度も謝るとそんなに謝らなくていいから早くいこうと
彼女の足は暖炉へ向かう
謝らなくていいと言う言葉が嬉しかったが顔が見れなかったのが残念だ

暖炉の奥にある板を外し、先ほど消した蝋燭に再び火をつけ部屋の明かりを消す
この一連の動作をする間も彼女の手は僕の服の裾を掴んだままだった。

「…メル」
「ん?」

本当にここ通るのと言って彼女は服の袖を離し一歩あとずさる。
僕がいるから大丈夫と言い聞かせ数秒後。彼女はやっと首を縦に振ってくれた

「じゃ、行くよ」
「うん…」

今も昔も先頭を切って歩くのは僕。だがふとした瞬間に彼女が消えてしまいそうで
僕は躊躇うことなく彼女の手を握り暖炉の中へと進んだ。